記憶を売りに来る客は、たいてい理由を語らない。 ノアの店は、街の裏通りにひっそりと看板を出している。持ち込まれた記憶は専用の端末で吸い出し、濃度に応じて値をつける。辛い記憶ほど高く売れることを、ノアはとうに割り切っていた。 その日訪れたのは、名前を名乗らない少女だった。差し出した端末に記録された記憶のラベルには、日付だけがあり、内容の説明が一切なかった。 「これ、いくらになりますか」 「中身を確認しないと、値段はつけられない」 少女は少し迷ってから、頷いた。再生ボタンを押した瞬間、ノアの視界に流れ込んできたのは、見覚えのある――もう存在しないはずの街並みだった。