秋人の家は代々、藩主の庭にある桜を守る「花守役」を務めてきた。剣を抜くことよりも、枝を払うことのほうが多い家系だった。 しかし黒船来航以来、藩内には不穏な空気が流れている。父は「花守は花守のままでいい」と繰り返すが、幼馴染たちは次々と尊皇攘夷の志士に身を投じていった。 「秋人、お前も剣を持て」 幼馴染の一人にそう詰め寄られた夜、秋人は答えを持たなかった。庭の桜は、誰が時代を変えようと変えまいと、変わらずそこに立っている。それだけが、今の秋人にとって確かなことだった。