湖畔の別荘は、警察のテープが外されたばかりだった。 久我が請け負う遺品整理の仕事は、たいてい静かなものだ。だが今回の依頼人――被害者の姉は、電話口で一つだけ奇妙な条件をつけた。「日記だけは、絶対に処分しないでください」。 別荘の書斎は綺麗に片付いていた。争った形跡もない。転落死という警察の見立てに、久我は元刑事の勘で小さな違和感を覚えた。 本棚の奥、辞書の裏に隠すように置かれていた一冊のノート。開いた最初のページに書かれていたのは、十年前に自分が担当し、未解決のまま迷宮入りした事件の被害者の名前だった。 湖の水面が、窓の外で静かに揺れていた。