「伴奏、桐生七海。以上」 音楽室に貼り出された紙を見て、七海は自分の名前を三回読み返した。見間違いではない。合奏コンクールの伴奏者に選ばれたのは、今年転入してきたばかりの陸ではなく、自分だった。 「意外だった?」 振り返ると、当の本人が窓際でスコアをめくっていた。噂通り、他人と目を合わせるのが苦手らしく、視線はずっと譜面の上にある。 「……はい。てっきり牧野くんが選ばれると思ってました」 「牧野は指が速いだけ。先生が聴いてたのは、指じゃなくて呼吸のほう」 陸はそう言うと、初めてピアノの蓋を開けた。最初の一音が鳴った瞬間、教室の空気が変わった気がした。七海は自分の楽譜を握りしめたまま、しばらく動けなかった。 放課後の音楽室に、二人分の足音が残った。