演劇部の部室に、去年から人が入っていないことを美咲は知っていた。ドアには「新入部員募集中」の色褪せた張り紙が、剥がれかけたまま貼られている。 バイトのシフトを終えて学校に戻ったのは、忘れ物を取りに行くためだった。それなのに、気づけば埃をかぶった台本の束を手に取っていた。 「勝手に入るなよ」 声に驚いて振り返ると、幽霊部員だと噂されていた三年の先輩が立っていた。気まずさに謝ろうとした美咲だったが、先輩は台本を一瞥して、意外なことを言った。 「読めるなら、声出してみろよ」 母のパートのシフト表が、頭の片隅をよぎった。それでも美咲は、埃っぽい台本のページを開いた。